マンガ【終電ちゃん】をご存知でしょうか?
『第67回ちばてつや賞・一般部門』に入選し、好評から連載化にこぎつけた、地力ある人気作品です。
この作品、良い意味でも悪い意味でも、タイトルからその内容のディテールが伝わり辛い側面があります。
そこで今回の記事は、僕の愛してやまない【終電ちゃん】について、べらべらと魅力を語り尽くすページとなっています。
鉄ヲタもそうでない方も、現代社会に生きる、特に勤務経験のある男女にオススメの内容となっております。
それではさっそく、いってみましょう!
終電ちゃん=最終列車の精霊?
作中で明確に示されないものの、終電ちゃんとはすなわち、最終列車にあわせて出勤してくる、女児のような姿形の精霊的存在です。
単純な擬人化フィルターで電車がそう見えているワケではなく、実際に終電ちゃんはそこに存在しています。
彼女は酔っぱらった居眠り客や、体調の優れないブラック勤めの会社員など、さまざまな人々を無事に家路につかせるため、日々奔走するのです。
基本は屋根の上に立ち、列車の運行に常時帯同。
そして最終電車が終点に着くまであいだ、すべての駅で乗客たちの世話を焼きまくります。
彼女の存在は駅利用者の間ではすっかり周知で、誰も彼もが姉のように慕っているのです。
齢をとらない人外の存在
1889年(明治22年)8月21日、当時は甲武鉄道として開通したのが中央線の出自。
実に100年以上もの歴史ある、世紀をまたいだ路線なのです。
そして中央線という名称に変更されたのは、1908年(明治41年)とされています。
恐らく終電ちゃんはこの当時から存在していたという設定であると思われ、必然的に人の理を逸脱したお方であると示されます。
上記画像の1960年当時でも、髪型こそやや違えど、今と変わらぬ女児の風貌を保っていますからね。
喋り口調が年増っぽいのも、そうした経歴から辿れば至極自然な事柄でしょう。
とはいえ他の路線に属する終電ちゃんは、それぞれ幼かったり、妙にくだけたトークを駆使する場合もあります。
よってこのセリフ回しは、中央線の終電ちゃん独自の、もって生まれた個性であると考えるのが自然でしょう。
路線ごとに特徴の違う終電ちゃん
前段で触れましたが、終電ちゃんはそれぞれ路線ごとにひとりずつ配置されており、異なる持ち味を披露します。
上記は山手線の終電ちゃん。
おしゃまなツインテールのお嬢風で、中央線の終電ちゃんとは仲が悪く、ケンカすることもしばしば。
これがメッチャ可愛いんですわ。
彼女が引きずっているのは『普通転轍機』、通称ダルマというもの。
終電ちゃんはそれぞれこうした「電車に由来するアイテム」を必ず身に付けており、それらがチャームポイントのひとつでもあります。
このあたりは、鉄ヲタの得意とする分野かもしれませんね。
山手線は利用客も多く、首都圏のメインルートとも呼べる重要路線。
よって『山手線待ち』と言われるレッドカーペット状態は頻繁に見られ、見方によっては”お嬢っぽい“ような気もしませんか?
作中では路線ごとの特色をうまく擬人化であてはめており、それがまたドンピシャ感がスッゴイ。
もちろん関東圏だけでなく、全国津々浦々の電車がどんどん登場するため、住まいの近くの終電ちゃんが出てくるだけで、ウキウキ感が止まらないです。
下記の記事では、全路線の終電ちゃんを一挙に紹介しています。
萌え作品と思ったか?いいや、こいつは人間ドラマだ
キャラ量産ぶっこみの、中身スカスカ萌え作品に食傷気味な方は多いでしょう。
本作、パッと見では電車擬人化の単なる萌え萌えゴリ押しに見えるかもしれませんが、実態はずいぶん異なるものとなっています。
終電ちゃんの毎話ごと主役の多くは、あくまで最終列車に乗り込んだ人々の物語。
人間の数だけドラマはある、とはよく言ったもので、誰もが小さな喜びや悲しみを抱えており、それがはからずも吐露される瞬間は必ず存在しています。
終電ちゃんはそうした彼らの心情にたびたび触れ、背を押したり、肩を叩いたり、時には一喝することで”お手伝い“をしていくことになるのです。
展開されるドラマの数々は、大風呂敷にならない程度の、とりとめもない日常のストーリー。
飾り過ぎず、慎ましく、それでいて浮かぶ情景は心に沁みるような、本当に”ちょうどいい“ぐらいのエピソードが満載。
現代人の共感をおおいに受ける内容であるため、毎日会社勤めの社会人、特に頻繁に終電の世話になっている人ほど、この作品は強くオススメ出来ます。
カワイイ絵柄に相反して、非常にしんみりと心を打つ、それでいて温かいストーリーがたっぷり詰まっているのです。
終電ちゃんの役目とは?
そもそも最終列車に現れる彼女らは、どういった目的で行動する者たちなのか?
実はこれも、単純明快。
終電に乗るみんなに、無事に家路についてほしい。
ただそれだけのこと。たったそれだけのために、彼女らは毎夜、乗客たちの世話を焼くのです。
特色のまるで異なる終電ちゃんたちですが、この想いだけは共通。
口が悪かったりおっとりしていたりと、色々な個性を持つ彼女らですが、その行動理念だけは必ず統一されたものとなっているのです。
時に大幅に出発を遅延させ、飲み物を配り歩き、寒くはないかと声をかけ、寝過ごしそうな者の肩を叩く。
まるでおっかさんやんけ……
やけに生き生きしてる終電客たち
➡僕の知ってる終電はこんなに明るくない
アナタの終電のイメージって、どんなものですか?たぶん多くの場合、
こんな感じですよね。
でも本作の終電客たちは、やたらノリノリでハッピーな雰囲気がマシマシ。
それもそのはず、最終列車には、終電ちゃんが居るからなのです。
世話焼きの姉御がアレコレ走り回る姿を見たら、日頃の疲れが吹き飛ぶとまでは言わずとも、ほっこりと心が和むことは容易に想像できますよね。
普段から終電を利用している方であればこそ、この世界観を純粋に「羨ましいッ!」と感じるのではないでしょうか。
名前を知る程度の能力
終電ちゃんが慕われる要因のひとつに、『名前を知る能力』が挙がります。
まるで昔から知っているかのように、下の名前を呼び捨てにする中央線の終電ちゃん。
おっ母ちゃん……
程度の差はあれど、全ての終電ちゃんはこの能力を有しているようで、一見の終電客であっても名前を呼んで貰えます。
中には苗字で呼ぶ終電ちゃんも居るものの、中央線はファーストネーム呼び捨て一択。
日本人って下の名前で呼ばれる間柄はそうそう居ないので、ちょっとドキッとする気持ちは分かる分かる。
また中央線の終電ちゃんはとても記憶力が優れており、ひとりひとりの乗り継ぎや住まいの最寄り駅、果ては酒癖やら家庭の事情まで、色々なことをすべて把握しているのです。
こうして親身になってくれる最終列車の精霊に、悪い気持ちなどそうそう芽生えづらいでしょうね。
いやに快活で明るい雰囲気の乗客らの秘密は、こうした部分に隠されているのです。
ただ愛されキャラというワケでもない
本作を魅力的にしているのは、終電ちゃんが単なる愛されマスコットキャラクターではない、という部分。
乗客や同僚と軋轢を生むこともしばしばで、時に彼女らは批判の矢面に立たされ、非難や罵倒、そして暴力にさらされることもあるのです。
ただ単に「終電ちゃんカワイーッ♥」という中身カラッポのマンガであれば、この作品が人気を博すこともなく、そして僕自身も手に取ることはなかったでしょう。
チヤホヤともてはやされるだけの、体面的なお飾りシンボル。
終電ちゃんはそういうものとはむしろ対照的で、苦労を知り、苦難に立ち向かう、泥臭い挑戦者たちです。
本作が魅力的な理由のひとつには、感情の機微をうまく表した演出が多く、それが違和感なく自然で、しっくりと理解出来るところ。
特に中央線の終電ちゃんは憎まれ役を買って出ることが多く、それに直面した乗客たちが憤るさまは、なんとなく心に迫るものがあります。
ここでは前段で、「萌え作品ではない」と言った意味がよく分かるシーンを抜粋しました。
単なるキュンキュン萌え萌え♥の登場人物は、大勢に罵倒されたり、雪をぶつけられたりはしないでしょう?
終電ちゃん:まとめ
いまのところアニメ化などのウワサは無いようですが、ショートエピソードなので、ソウナンですか?のような時短タイプにはとても向いていそうですね。
ともあれマンガ版は太鼓判を押せる出来映えなので、ぜひとも一度、手に取って見てほしい作品であります!
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